|
ルルーシュも出席していた夜会。 そこに護衛としてジェレミア達と共に訪れていたスザクは、ユーフェミアに声を掛けられた。ルルーシュより上位の皇族相手に下手を打つわけにはいかないと、ジェレミアの了承を得、彼女の護衛に囲まれた状態ではあるが、雑談をする事になった。 「あなたがルルーシュの騎士、枢木スザクね。私は第三皇女ユーフェミア・リ・ブリタニア。ルルーシュの妹よ」 穏やかな物言いのユーフェミアから差別意識は感じられない。 それもそのはず、彼女は慈愛の姫と呼ばれるほど優しさに溢れた人物だった。 国を離れ、他国の学校にも通った経験を持つユーフェミアは、他の皇族のように上から目線で話すのではなく、同じ視点に立って話をしようとしてくれた。 そのせいか、思いのほか二人の会話は弾んだ。 「ふふ、スザクは笑うととても可愛らしいのね」 くすくすと笑いながら言われたため、スザクは恥ずかしさから思わず赤面した。 そんなスザクを、護衛のヴィレッタは冷たい視線で睨みつけた。日本人風情が調子に乗るなと言っているのだ。だが、彼女の視線には他の感情も滲んでおり「童顔だから確かに可愛いいが、皇女殿下に、しかもこんなに美しく、愛らしい御方に可愛いと言ってもらえるなんて、下等民族のくせになんて羨ましいやつだ」という嫉妬が見て取れた。 「いつも貴方は険しい表情をしているから、笑っている顔は初めて見ました」 「も、申し訳ありません」 「いえ、お仕事中ですから、険しいのは当たり前です」 ハッとなり謝ったスザクに、ユーフェミアは笑いながら言った。 ユーフェミアはそう言うが、二人で穏やかに笑っているという事は、地位も仕事も忘れて話に夢中になっていたということだ。皇女相手に調子に乗り過ぎたと反省も込めて再度謝ると、ユーフェミアは慌てて否定した。 「ちがうんです。スザクは笑っている方がずっと素敵です。私の前ではそうやって笑っていてください」 いいですね? と、最後に小さい声で命令するように言った。 周りにはユーフェミアの護衛。 皇族であるユーフェミアが、スザクにフランクな態度で接するようにと命じることで、周りの護衛からスザクを守ったのだ。今後スザクが失礼な態度をとっても、護衛達はスザクに手出しをすることは無いだろう。 他の皇族には出来ない、心遣いにスザクは感動を覚えていた。 その後も二人の会話は弾み、明るい笑顔は絶える事が無かった。 そんな楽しげな笑い声に気が付き、チラリと視線を向けたルルーシュは、自分の前では見せることのない騎士と妹の心からの笑顔を目にしても表情一つ変える事はなかった。そしてすぐに視線をそらすと、目の前にいる貴族との会話を続けた。 「貴方の事は以前から聞いていました。シュナイゼル兄様のランスロットのパイロットに選ばれ、騎乗していると」 「はい。自分が一番適合率が高かったと聞いております」 「ランスロットはじゃや馬だとお姉さまが言っていました。とても人が操れるものでは無いとか。それを意のままに操縦するのだから、スザクはやはりすごいのですね」 「いえ、そんなことはありません」 「そんなことはあります。もう、ルルーシュったら。これだけの才能を埋もれさせるなんて・・・ランスロットのデータを取りたくても、ルルーシュが許さないそうですね」 ランスロットのデータを取るためには、戦場に出なければならない。場を整え、手を回し、後はルルーシュの許可を得るだけ、という段階までいつも準備をし許可を求めるのだが・・・前回願い出た時も酷かった。 「偽りとはいえ、お前は俺の騎士を名乗っているのだろう?それなのに、俺の傍を離れるのか?ああ、偽りの主従だから、離れたところで何も問題はないか。まあいい、行きたければ勝手にどこへでも行って来い、偽りの主の許可を得る必要など無いだろう、好きにしろ」 ルルーシュは用があると言ってジェレミアを連れその場を立ち去り、その場にはスザクだけが取り残された。 偽りの主従だから、好き勝手すればいい。 真の主従ならば、好き勝手などできはしない。 もしここで、ルルーシュの傍を離れて戦場に行けば、偽りの主従関係だと認めたことになってしまう。 ならば、自分は彼の騎士として今回の作戦には参加しない。 それ以外に、答えなど出せなかった。 ルルーシュは主である事を拒絶しているが、スザクはルルーシュの騎士になりたいと望んでいた。誰よりも一番近くにいて、彼を守りたいとずっと思っていた。 騎士として認めてほしい。 この契約は偽りではなく真実なのだと気付いてほしい。 僕は、君の唯一の騎士なのだから。 ・・・間違った手段で手に入れてしまった主従関係。 正しい過程を経なかったから、歪んでしまった関係。 「スザク、どうかしましたか?」 「え?あ、いいえ。何でもありません」 声にハッとなり顔をあげると、ユーフェミアが心配そうにこちらを見ていた。嫌な事を思い出して、無意識のうちに俯き、暗い顔をしてしまった。失態だと焦ったのが解ったのか、ユーフェミアは場の空気を柔らかくするように笑った。 「そんなに慌てなくてもいいのよ。貴方は本当に真面目で優しい方ですね」 やわらかく包み込むような暖かな微笑みと、自分を他国の人間としてではなく、スザクという1人の人間としてまっすぐに見てくれる彼女は、まるで聖女のようだった。 心の中に鬱積していた暗いものを洗い流し、清め、暖かで優しく穏やかな感情を呼び起こしてくれる。そんな姿に、スザクは目を奪われた。 「ユー、フェミア、様」 思わず、呆けた表情で名前を呼んだ時、ユーフェミアは何かに気がついたように、その両の手のひらを胸の前で合わせると、満面の笑みを浮かべた。 |